想定外の彼

 一つ、世の中には余剰魔力というのが増えていて、それが魔物化の原因。
 一つ、ジンさん(白い小動物さん)は、その余剰魔力が主な餌。
 一つ、魔物になりかけていても、ジンさんに治療してもらえれば、治る。
 一つ、リオニス君も、彼の白銀の竜も、ジンさんに治してもらった仲間。
 ……細かいことを考えなければ、こんな感じ、だろうか。だから、リオニス君は即座に僕をジンさんの所に連れてきてくれた。けれど問題はここからで。
 一つ、僕の魔力回路はとても繊細。
 ずば抜けて高い、他の魔力への感受性。一方で耐久性は著しく低い。余剰魔力で傷つきやすく、最大魔力蓄積量を増やしにくい体質なのだそうだ。そもそも、魔力とは、魔素に生命力や思いなどのエネルギーを乗せたもの。思念を読み取るほどの鋭敏な感覚を持つ僕は、ジンさんの近くにいないと直ぐにまた魔力回路が傷つき、魔物化が進行するらしい。
 ジンさんは、僕に世捨て人のような生活を強いることを嫌がるけれど、僕は別に人間の世界に戻らなくても構わないと思っている。妹のことは気にかかるけれど、魔物になって迷惑をかけるのと、単に会えなくなるだけなら、会えなくなるだけの方が断然マシだ。
「んー、もう一つ、方法があるよ?」
 いきなり背後から声をかけられて、びっくりしつつも振り返った。ジンさんが、尻尾の毛を逆立たせながら警戒している。その毛並みと同じ、真っ白な髪の少年。
「キミが、そこの彼と同じになれば、一緒にいなくても良いんじゃないの?」
 僕は何を言われたのか一瞬わからなかったし、ジンさんは鼻の頭にシワを寄せて吠えた。
「ミュウ!(軽々しく人外化を勧めるな!)」
「やだなぁ、そんな軽々しく勧めてないよ。そろそろ次の実験段階に来たところに、この子がたまたま条件を満たしてただけじゃないか」
 ニコニコと笑う少年は、僕を見上げた。
「どうする? ちょーっと色は薄くなるかもだけど、余剰魔力に悩まされない体になれるよ」
 ジンさんがまだ唸っているのが気にかかる。でも、一生魔物にならずに済むのはとてもありがたいことで。
「あ、今度はちょっと色をもらうだけだから、形は大きく変わらないよ?」
「ミュ!?(なんだって!?)」
 ジンさんがとてもショックを受けた様子なんだけど、どういうことだろう?
「ふふっ、気になる? こっちの子はね、一番最初の実験対象だったから、ボク、うまくいくように願掛けして、異世界から魂を貰ってきたんだよね。ボクの欠片で新しい体を作ったら、元人間の筈なのに、どうも人間の姿を取れないみたいで」
 ジンさんがプルプルと震えている。異世界、というのはピンとこないけれども、元いた場所からさらわれ、違う姿を与えられて、彼はどれだけ悲しかっただろう。苦しかっただろう。
「キミが実験に付き合ってくれるなら、この子の負担も減らせるし、キミの悩みもボクの悩みも解決するかもだし、良いこと尽くめじゃないかな?」
「ジンさんの負担」
「だって、独りで全部の余剰魔力を処理するのは、時間がかかるじゃないか。で、どうする?」
 僕の返事に、白い少年は笑みを深くした。