夢か、現か

 微睡まどろみの中、誰かと誰かが会話しているのをぼんやりと聞いていた。
(この子は、我慢強いな。……我慢強すぎて、心配だ)
「ジンもそう思うか。全身こんなに腫れているのに……、よくぞ正気を保っていたものだ。治りそうか?」
(治してみせるさ。ただ、問題はそれだけじゃなさそうでな。まあ、目が覚めたら本人と相談するよ)
 治してみせるさ、と断言されたことに驚いたけれど、ほっとした。あのズキズキとした痛みは続いているけれど、治るのであれば、いくらだって我慢できる。
(リオニスは今日も授業あるんだろ? 一旦帰れよ。この子のことは、オレが責任持ってしっかりついてるよ)
「昨日に引き続いて、すまないな……」
(なーに、それが役目だ。気にするな)
 リオニス君の気配が消えて、残った誰かが眠る僕の顔を覗き込んだ、気がした。思ったよりもその気配は小さくて、肩透かしを食らった気分だ。
(せめて、オレがこんな姿じゃなかったら)
 絞り出したような、苦しげな独り言。気になるけれど、体はピクリとも動かない。
 不意に、知らない気配が増えた。けれど、それでも体は動かせなかった。
「人間っぽく化ければ良いだけの話じゃないか」
(アンタも唐突だよな。そんな簡単にできていたら、とっくにそうしてるさ)
「そこはボクも不思議。それでも、元人間?」
 片方の気配が、とても悲しげな色を帯びる。泣き出しそうなその気配をどうにかしたいのに、僕にできたのは指先を僅かに動かすことだけ。
「……ふーん」
 後から来た方の気配が、興味深げな声を出した。
「この子、健気だね? 健気な子はボク、好きだなぁ」
 好意的なことを言われている筈なのに、何故か背筋がゾワリと粟立つ。それは、もう一つの小さな気配も同じだったようで、警戒心の滲んだ思念を発した。
(この子にまで何かするんじゃないだろうな?)
「ふふ、弱ってる子には何もしないよ」
 つまり、僕が元気になったら、何かをされるということだろう。でも、何が待ち受けているにしても、今の状況を乗り越えないわけにはいかないんだ。魔物になることだけは、耐えられないから。
「でも、気付いてる? その子、その体質のままじゃ、一生キミから離れられないじゃん」
(そうだとしても)
 ほんの少し前と同じ、絞り出したような思念。なのに、今、この小さな気配から感じられるのは、静かな怒りだった。
(選ぶのは、本人であるべきだ。それも、せめて今の状態から脱してから、な)
 気迫に押されたのか、後から来た気配が、来た時同様、唐突に消える。心なしか、一気に呼吸が楽になった気がした。
(せめて今は、ゆっくり眠ってくれると良いんだがな。これだけ騒げば……少し、難しいか?)
 どちらかと言えば痛みの方が邪魔なんだけれど、幸いにもそれは少しずつ消えているようだった。
 やっと、さっき言われた言葉の通り、ゆっくりと眠れそうだ。