魔人化発作

 授業が全部終わって、寮に戻っても気が休まらない。
 近頃は、眠りも浅いなと思っていたんだ。ちょうど今も、ズキズキとした痛みで目が覚めたところ。まだ陽が昇るにも早い、真っ暗闇。
 酷く喉が渇いていて、背中は寝汗でベタベタになっていた。ああ、気持ち悪い。
 枕元に灯りを浮かべながら、生活魔法の応用で空気中の水分を集める。普段なら難なくこなせる筈のことが、今はとても、しんどかった。
 もどかしさにイライラとしながら僅かな水を飲む。どうしてだろう、こんなにも心がささくれ立ってくるなんて。
 ズキッと、胸が痛んだ。いや、胸だけじゃない。もう全身が痛くて、ベッドの中、うずくまる。
 生理的な涙で滲んだ視界の中、魔力回路の腫れが首から下の、ほぼ全身に及んだことを知った。
 ……ああ。
 こんなに痛くなかったら、きっと僕は絶望のため息をついていただろう。流石にもう言い逃れができないほど、それは立派な魔紋だった。
 ガンガンと、頭が殴られたかのように痛む。物理的に痛いのか、絶望感が原因か、もう冷静に判断できる気がしない。
 ぐぅ、と、喉から唸り声が漏れる。
 そりゃ、魔物だって暴れるだろう。こんなにも痛くて、苦しくて、もどかしくて、やるせなくて、惨めな気持ちになれば。自暴自棄にも、なるだろう。
 助けてと、言いたかった。でも、誰に言えるというのか。魔物は討伐の対象で。当然、魔人なんて危険度の高い化け物で。
 けれど僕は妹のためにも、理性なく暴れる魔物の一味なんかに成り下がるわけにいかなくて。
 グラグラと揺れる心を反映するかのように、視界もグラグラと定まらない。
 いっそ全てを壊し、洗い流してしまいたい。違う、それは魔物のすることだ。
 この苦痛を終わらせたかった。できるだけ、迷惑の掛からない方法で。
 ふと脳裏をよぎる、昼間の出来事。
 あれだけ脅威的な魔竜を簡単にあしらっていた、リオニス君。彼なら僕のことも、難なく片付けてくれるに違いない。
 いやいや、僕は今、何を考えた。クラスメイトを、人殺しにするつもりか?
 ああでも、他にどんな手立てがある? 僕が僕である内に、次の災厄になる前に。
 ふらつく脚は既に廊下に出ていて、震える手は既に寮の特別室の扉をノックしてきた。
「何だ、こんな夜中、に……」
 リオニス君は僕を見て、瞬時に顔色を変えた。
「お願い、リオニス君。僕を倒して。僕が狂ってしまう前に、終わらせて……」
「馬鹿か、お前!?」
 グイッと腕を取られ、リオニス君の部屋に引きずり込まれる。
 バタンと、日頃のクールさからは想像しにくい乱暴な仕草で扉を閉めた彼の顔は、けれどとても痛そうで。
「こんなになるまで、よく我慢できたな!?」
 あまりにリオニス君が悲しそうな顔をするから、僕の方も、つい弱音が漏れた。
「もう、耐えられな……」
「耐えなくて良い! ……おい、ジン!! 起きろ! 今からそっちへ行く!」
 リオニス君が何事か怒鳴っている。そこで、僕の意識は途切れた。