語られた背景と希望

 そもそも魔力が何か、なんて、普段気にしたこともない。生まれた時からそれは身の内にあり、消費したら火を出したり水を出したり、様々なことができる。何が得意か、については個人差があり、例えば俺は火の操作が得意で、だから火属性の持ち主と言われてきた。
 けれど、この小動物が言うには、世界はもう少しだけ、複雑にできている。
 世界には、魔素と呼ばれるものがあるのだと、小動物は言った。生きとし生けるものたちは、普段から魔素を取り込み、それに自分の生命力を混ぜ合わせたものを蓄えている。個別の色に染まったそれが体内魔力で、体内魔力に思念の力を乗せて起こす現象が、魔法。そして魔法が完遂かんすいされれば、生命や思念の力は消費されるが、魔素は解放され、世界に還元されていく。
 体内魔力は無意識のうちに生成され続けるが、蓄えておける量には限りがある。余った分は、これまた世界に放出される。一度個別の色に染まってしまった魔素は、他個体にとって、利用できないどころか毒になってしまうのだという。これを余剰魔力と呼ぶ。
「ちょっと待て」
「ミュ?(うん?)」
「頭の中を整理したいから、ちょっと待ってくれ。つまり、問題は、魔素が減って、余剰魔力が増えていることだと言いたい訳か?」
 小動物は、あっさり頷いた。
「ミュウミュウミュミュ(余剰魔力のせいで暴走した個体が、魔物で)」
「ストップ。もう少し、丁寧ていねいに」
 そして聞き出したところによると、魔素が減りすぎた所為せいで、体内魔力を蓄えておくべき魔力回路に余剰魔力を取り込みすぎた個体が、魔物になっていくらしい。魔紋というのは腫れてしまった魔力回路のことで、大体は痛みのあまりに暴走する。俺のように、精神的不調として出てくる例も、少ないながらあるようだ。暴走するという一点では変わらない。魔力回路の異常が原因だからか、魔法を撃って撃って撃ちまくるという行動に出るのだとか。
 思い当たる節……しかないな。そっと、魔紋の脈打つ腕を見下ろす。……あれ?
「俺の魔紋、もっと腫れていなかったか?」
「ミュウ(最初はもっとえげつなかったさ)」
 小動物が、そっと右腕に鼻先を寄せた。すると、最近お馴染みになってしまった魔力の減る感覚と共に、更に右腕の魔紋の色が薄れる。
「ミュ(寛解かんかいにはまだかかりそうだ)」
 グラグラする頭でそれを聞いた。頭がグラグラとするのは、魔力欠乏の典型的な症状の一つだ。気分不良、めまい、意識消失、……ひどければ、死にいたる。
寛解かんかい、したら……」
「ミュウ(魔紋が消えるな)」
 魔紋が消える。つまり、魔物から戻れる。もしかして、魔物がこの島に集うのは。
 改めて、白い小動物を見た。
「……お前は、何者だ……?」
 小動物は、視線をらす。背後でパタリと、大きな尻尾がしょげ返った。
「ミッ(まあ、しばらく養生すると良い)」
 望む答えは得られなかったが、あまりに悲しそうなその様子に、俺は口をつぐんだ。