読み終わり パタンと閉じる 本の音 仰いだ空に 揺らぐ幻想

 本を閉じ、はふぅ、と満足気に天を仰ぐ。そんなロードナイトの姿を、ドキドキと見守るのはローズクォーツだ。
「ね、ね、どうだった?」
 無邪気にたずねるローズクォーツに顔を向け、ロードナイトは一言。
「闇が深い」
「あぐぅっ、そうかもねぇ」
 ローズクォーツがその本、『リトス・ラピスの夢語り』【赤陽の章】を書庫の中に見つけたのは偶然だった。隣にあったはずの【青月の章】は既に持ち出されており、二人はその存在を知らない。
「赤陽、って、言い得て妙かもね。登場する石は基本的に赤系とか金色系とかだし、今から夜になるぞ……ってくらいの闇の込め方が」
「でも、興味深かったんでしょ?」
「そうね。面白い本をありがとうね」
 えへへー、と照れるローズクォーツの頭を撫でながら、ロードナイトは物語を思い返す。太陽女神に焦がれて龍と化した人魚の少女。囚われていた箱入り少女の秘密に振り回される女傭兵。竜の母娘の呪いを一身に受けてしまった、哀れな女騎士団長。女王から逃げられそうにない男装の衣装師。一族総出でしたわれてしまった不老不死の美女。
 物語世界を夢想するロードナイトの口元が、ゆるくを描く。ローズクォーツは、そんなトランス状態の彼女を眺めながら、これまたニコニコとしていた。日頃は少々表情足らずなせいで、高嶺の花として扱われがちなロードナイト。こんなに可愛くて無防備な姿は独り占めするに限るよね、と、ローズクォーツは思う。
「夜が来ても、きっとまた朝が来るのよね」
 まるで、自身に言い聞かせるかのような言葉に、おや、とロードナイトを見上げるローズクォーツ。
「そんなに気になるの? その続き」
「んー、あざとい終わり方の話が多かったから……」
「確かに」
 本文が文庫本四頁では、そういうものなのかもしれないが。しかしロードナイトのうれい顔は見たくないローズクォーツである。
「作者は……和条門わじょうもんさん、ね。あたし、聞いてみる!」
「あ、別に良いのに……。それより、その作者さんの他の話が読みたいな」
「あるのかな?」
 二人はそろって首をかしげた。パラリと奥付の前をめくると、そこには既刊一覧がある。
「あるみたいだね」
「探しに行くの?」
「ん」
 ロードナイトはうなずき、読書室の椅子から立ち上がった。ローズクォーツも、一緒に立ち上がる。
「じゃあ、どれから探す? 十二ヶ月の彩り? カノンカノン?」
「絡繰異聞が気になるの。完結したって書いてあるし」
 既刊の中でも最も闇深い物語の名を挙げながら、ロードナイトは書庫に向かう。
 物語世界に没入してしまう彼女が、絡繰異聞(特に前日譚)を読んで大丈夫なのか心配ではあるが、そこはローズクォーツがうまくコントロールしてくれるであろう。
 和条門尚樹は闇深くとも夜明けの創作者であると、創作仲間には思われているようだから。