終わったよ そっと囁き 語り手の 戒め解いて 空に羽ばたけ

 パタリ、本を閉じ、クンツァイトは唸った。
「なんて物語を書くんだ、この和条門氏とやらは」
「どうかしました? ……ああ、それは」
 チャロアイトは、クンツァイトの手にある『リトス・ラピスの夢語り』の背表紙を見て、納得したように頷く。
「鉱石モチーフの掌編集ですね。その色だと、青月の章かな?」
 青月の章、とクンツァイトはオウム返しに呟く。
「まだあるのか⁉︎」
 チャロアイトは飄々と答えた。
「赤陽の章、そのうち書きたいなって言ってましたよ」
「ふうん……? ってチャロアイト、まさかおまえ、この作者と知り合いだったり」
「ふふ、それは内緒です」
 にこにこと、底の見えない笑顔ではぐらかされ、クンツァイトはガシガシと、頭を掻いた。
「しかし、なんで青月なんだ?」
「登場する石、どうです?」
 クンツァイトは思い返す。ムーンストーン、マラカイトの紡いだ幻想的な世界観。アパタイト、スギライトの不穏そうな世界での邂逅。カイヤナイト、ラピスラズリは拗らせていたし。ラリマー、ラブラドライトには今世こそ報われてほしいものだった。タンザナイト、モルダバイトは悲恋めいて……。
「緑とか青とか紫色の絡む石、多いな。あと、月もか。なるほど、青月、ねえ」
 ついでに、ブルームーンには、滅多に起こらないこと、という意味合いもある。
「確かに、そんなあちこちで起こってそうなことじゃないな」
「何を言っているんですか。そもそもその話、ファンタジーじゃないですか。つまりフィクションですよ、フィクション」
「お、おう。そうだったな」
 チャロアイトの呆れ声で現実に引き戻され、クンツァイトは罰が悪そうに頬を掻く。
「クンツァイトが感情移入しすぎる必要はないんです。だってこれは、架空の物語の出来事なのだから。君には一切関係がない話なんです。わかるでしょ?」
 噛んで含める言い方をされても、クンツァイトの表情は晴れない。チャロアイトは嘆息した。
「それに、後で全員報われたって、尚樹さんが言ってましたしね」
「はぁ⁉︎ え、ちょ、やっぱ、知り合いなんじゃねーか!」
「だって私、尚樹さんがつけてるブレスレットに眷属がいますもん」
 さらりと爆弾発言を落とし、チャロアイトは微笑んだ。
「尚樹さんが私のことを認知しているかは知りませんが、私は尚樹さんのこと、眷属から聞いていますよ」
「それより、彼等は本当に報われたんだろうな⁉︎ 特に、タンザナイト!」
 クンツァイトが詰め寄り、チャロアイトから聞き出したところによると。
 ムーンストーンはマラカイトのいた毒沼の主を浄化し、マラカイトを月に連れ帰ることにしたそうな。アパタイトは、スギライトが周囲の低級な霊的存在を消し去っていることにはついぞ気付かないまま、体調が良くなったと喜んでいるとか。腐れ縁のカイヤナイトとラピスラズリは、結局そのまま交際関係にもつれ込んだ。やっとこさくっついたと、周囲は胸を撫で下ろしたらしい。ラリマーはラブラドライトのことを将来の結婚相手だと早々に宣言し、休日はアトリエに入り浸っているとのこと。さて、タンザナイトがルナクォーツの記憶を持っていることに気付いたモルダバイトは……