手の届く ものとも知れず でも望む 君の姿を 僕の隣に

「なあ、カイヤナイト〜」
 甘えたような声が聞こえた次の瞬間、一人、読書をしていたカイヤナイトの背中に、ずっしりとした重みが加わった。うんざりとした表情で確認すれば思った通りの姿があり、カイヤナイトの眉間にしわが寄る。
 片腕でがっしりとカイヤナイトを捕らえつつ、もう片方の手では彼自身の、金色のメッシュが入った瑠璃の緩い癖毛を指先でくるくると弄ぶ、ラピスラズリ。耳元には、大ぶりなゴールドピアスが揺れて、首には金の太いチェーンのネックレス、更に腕に何重にも巻かれたブレスレットも金。とにかくケバくなりがちな黄金色を、それでも華やかにつけこなすセンスだけは素直にすごいなと思わなくもないが、それにしても少しばかりやりすぎだろう。カイヤナイトの口からは、重い溜息がこぼれた。
「今度は、何があったんですか。また誰かにふられました?」
「オレってば、そんなにわかりやすい?」
 ヨヨヨと嘆くラピスラズリの目を覗き込んで、カイヤナイトは鼻で笑った。
「どうせ、ふられるように自分から仕向けたんでしょうに」
 ラピスラズリもまた、ニヤリと口角を上げる。
「ちぇーっ、お前には何でもお見通しってか〜。身持ち硬すぎ、だってよ」
 いつものパターンだなと、カイヤナイトは肩をすくめた。その派手派手しい外見を裏切り、ラピスラズリが実は一途で純情だと、彼はよく知っていた。何せ、お互いに物心つく頃からの腐れ縁である。遊びたがっているようでいて、たった一人の純愛を求めていることは見てとれた……が、カイヤナイトはそれを指摘しない。彼にだって、彼なりの事情はあるのだ。
 ラピスラズリのことを、幼馴染以上に想っているという、事情が。
 もっとも、カイヤナイトはラピスラズリに告白するつもりはなかった。何故なら、ラピスラズリはいつも女性たちと遊びたがったし、おそらく恋愛観はヘテロなのだと予測したからである。
 いつも湧き上がる複雑な気持ちを悟られては困ると、カイヤナイトは飛びつかれる前から読んでいた本に視線を落とす。まるで、もうこの話題は終わりとでもいうかのように。
「そう言えばさ〜」
 そんなカイヤナイトに体重をグイグイと預けたまま、ラピスラズリは、何でもない調子で爆弾を放った。
「カイヤナイトは、誰かと付き合ったりしないじゃん? なんで?」
 そのとき、どんな表情を浮かべたのか。カイヤナイトは思い出せないし、目撃したラピスラズリも、決して白状しないのであるが。
「聞きます?」
 いっそ穏やかな声音であったのに、ラピスラズリは真っ青になって首を横に振った。
「イイエ、結構デス」
「ふふ、それは残念」
「な、なぁ……」
 それでもおずおずと、ラピスラズリは声を絞り出した。そうしろと、本能が激しく警鐘を鳴らしていた。ここでカイヤナイトを逃してしまうと、もう二度と会えない、そんな気がして。
「オレ、カイヤナイトのこと、」
 ラピスラズリの言葉は、途切れた。彼の唇を塞いだカイヤナイトは、にこやかに、何事かを囁く。
 二人の関係性に、大きな変化が訪れようとしていた。