ミューミューと、か細い鳴き声がする。体は冷たくて重くて、多分、芯の方がまだ寒い。でも、そんな俺を、必死に温めようとしてくれている存在を、確かに感じた。
長く長く、現実逃避をしていたけれど、結局は桜香に絆されて戻ってきてしまった。きっと色々と覚悟しないといけないし、色々と説明を求めないと駄目だ。でないと、また自分で自分の心を折ってしまうかもしれないし。
体を意識すると、やっぱり重い。でも、いつまでも寝ているわけにはいかない。
そっと、瞼を持ち上げる。満月の光が、見慣れた室内を明るく照らしていた。
胸元に、二人の幼子がしがみついている。しがみついているどころかこれは、俺の乳を吸っている……? 二人とも、頭には猫耳がそびえ立ち、腰からは二又の尻尾。
猫又の子だなぁ、と、今更な感想を抱いた。ついでに、体が重いのも、納得した。そりゃ、幼子でも二人乗ってりゃ、重い。
じっと見守っていたら、目が合った。二対の水色が大きく見開かれる。異口同音に、幼子たちは俺を呼んだ。
「ママ……」
そうか、俺が、ママか……。そうだろうと覚悟していても、常識が砕かれる感覚に一瞬遠い目をしてしまった。やっぱり、俺の子なのか。
二人は俺の上から降りると、俺を引っ張り起こした。人間と猫、猫又では、成長の仕方が違うのだろう。乳飲み子でありながら、もう危なげなく動いているのだから。
「白檀、伽羅、そろそろママから降りて……」
部屋に入ってきた猫の姿の桜香は、俺が座っているのを見て、動きを止めた。と、思ったら、次の瞬間には目の前にキジトラの(茶色に縞模様のある)毛皮があって、つまり俺は彼の前脚の中にがっちり抱き込まれていた。
たちまち、甘い香りが俺を酔わせて、抵抗の術を奪う。うっとりとする俺に、更に追い討ちをかける、桜香の甘い声。
「もう逃がさないよ、僕の愛しい錦」
キュンとしたのは胸なのか、疼いた胎なのか。頭の上、耳元で囁かれたその言葉と吹きかけられた吐息に、俺の体は容易く甘イキした。背筋がピクピクと震え、尻尾と花芯、乳首がピンと立ち上がる。夢の中みたいに、こぷりと溢れ出す愛液。
「可愛いね、錦。そんなに嬉しかったんだ」
「ん……、ふうっ、あ、桜香、待ってくれ、子どもたちが、見て、ひうっ!」
弱々しく抵抗する俺の頭を耳ごとわしゃわしゃと撫でながら、桜香は子どもたちに告げる。
「これから錦を可愛がるから、邪魔するなよ」
子どもたち二人は、顔を見合わせた、ようだった。
「わかった、遊んでくる」
手に手をつないで部屋を出ていく二人の足取りはしっかりしているし、足音一つ、聞こえない。さすがは、猫である。
「これで、満足かな?」
片方の前脚で俺の頭の上に生えた猫耳を、もう片方では、同じく腰から生えていた尻尾を撫で下ろしながら、桜香が笑う。その慣れない感覚に、俺の背筋はぞわぞわと慄いた。
「ふふ、健気だね」
言われて、俺の尻尾が桜香の前脚に絡みついていることに気付いた。今までついてなかったものだから、どうやったら動かせるのか、解けるのか、わからない。途方に暮れて桜香を見上げると、金色の目が満足気に細められた。そこに映る俺の猫耳は、どうやら左右で色が違うように、見える。
「俺は、どうなった?」
説明を求めたら、桜香は真面目な顔になった。
「聞く覚悟はあるんだ?」
目を逸らさずに肯く。今更かもしれないけれど、今更だからこそ、知りたかった。
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