09 新月、閨の中

 桜香おうこうは、その言葉通り、俺をグズグズのトロトロにしたいらしい。丁寧ていねいに、けれどしつこく、体中をめ回しては、俺が反応した箇所をいじめる。
 何度も精を放った俺はドロドロで、既に息切れしていたところに追い討ちを食らい、もはや虫の息。体はこれっぽっちも言うことを聞かず、ピクピクと痙攣けいれんを繰り返す。なのに、桜香おうこう愛撫あいぶには健気に反応を返すのだから、余計に始末に負えない。
「いじらしいねぇ、こんなにふるえちゃって」
 耳に息が当たれば、首筋がゾクゾクする。うなじに牙の当たりそうな気配がするだけで、腰がねる。脇腹を毛皮がかすめれば、身をよじりたくなる。
 初めて触られた胸の小さな飾りは、俺が以前に愛撫あいぶする対象だと言及していたのが悪かったのか、特に執拗しつようにいじられて真っ赤にれ上がってしまった。男でも乳首で感じるなんて一生知りたくなかったのに、たったの数時間でいやらしい性感帯に変貌へんぼうさせられたそこは、今や、触れられれば俺の背をしならせ、腰を突き出させ、花芯をたせるスケベスイッチだ。快楽神経をき出しにする仕打ちに、涙をこらえることもできず、すすり泣くしかなかった。
「胸ってこんなに美味おいしそうにれるものなんだって、にしきが教えてくれなきゃ、一生知らなかったよ。極上の果物みたいだ」
 桜香おうこうはそう言って、きもせず俺の胸にむしゃぶりつく。
「も、やめろよ、ジンジンする、痛い……」
「痛くしてないよ? 気持ちイイの間違いじゃないの?」
 次いで、乳首に牙を立てられ、俺は思わず悲鳴を上げた。
「ひぎぃっ!」
「痛いっていうのは、こういうこと。……あれ? 痛くしたのに射精してるよ、にしき。とんだ変態になっちゃったね」
「あ、あぁ、そんな、嘘だ……」
 けれど、いくら俺が信じたくなくても、俺の愚息はすっかり薄くなった精液を吐き出していて、それ以上桜香おうこうの言葉が否定できなかった。
「こんなに変態になっちゃったにしきならこのままれちゃっても大丈夫な気がするけど、まあ、せっかく色々教えてくれたんだし、しっかりらして慣らしてあげるからね」
 まだまだ甚振いたぶるつもりらしい、その言い様に、頭がクラクラする。
ずは、らす……っと」
 桜香おうこうは俺の両腿りょうももをガバッと抱え上げた。何度も吐き出した精液が尻の方にも垂れて、あなの入り口は既に湿っている。けれど、桜香おうこうの舌が近づくと、俺の体は無意識、かつ明らかに、強張った。挿入の痛みに耐えるだけだった初夜を思い出し、警戒しているかのように。
「んー、やっぱり後ろからの方がやりやすいや」
 気付かなかったはずはなかろうに、桜香おうこうはあの時のように俺をひっくり返し、腰をつかんだ。あらぬ所に感じる、桜香おうこうひげのくすぐったさと、熱い吐息。
「ほら、ちゃんと息して、にしき
 指摘されて、自分が息を詰めていたことを知る。俺自身ではどうしようもなくて、首を横に振った。
「仕方ないな。しっかり気持ちイイって上書きしてあげないとダメか……」
「ひっ!」
 ピチャピチャと、舌ですぼまりに唾液を塗り込められる。泥濘ぬかるんだそこがほころび出すとしわの一つ一つまで丁寧ていねいめ広げる、ねちっこい前戯ぜんぎ
 逃げようとしても、腰をがっしりつかまれていては、逃げられない。無意味に、手がシーツの海をき乱した。止まっていた息は、再開こそしたものの、まだ浅い。
 やがて、つぷり、と感じたのは、尻穴を割り開かれる感触。
「や、ああぁ、入って、くるなよぉ……」
 今回侵入してきたのは、桜香おうこうの舌だ。本気で、初夜を上書きするつもりらしい。
 俺は絶望したけれど、一体何がこんなに苦しく感じるのか、もはやわからなかった。

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