桜香は、その言葉通り、俺をグズグズのトロトロにしたいらしい。丁寧に、けれどしつこく、体中を舐め回しては、俺が反応した箇所をいじめる。
何度も精を放った俺はドロドロで、既に息切れしていたところに追い討ちを食らい、もはや虫の息。体はこれっぽっちも言うことを聞かず、ピクピクと痙攣を繰り返す。なのに、桜香の愛撫には健気に反応を返すのだから、余計に始末に負えない。
「いじらしいねぇ、こんなに震えちゃって」
耳に息が当たれば、首筋がゾクゾクする。頸に牙の当たりそうな気配がするだけで、腰が跳ねる。脇腹を毛皮が掠めれば、身を捩りたくなる。
初めて触られた胸の小さな飾りは、俺が以前に愛撫する対象だと言及していたのが悪かったのか、特に執拗にいじられて真っ赤に腫れ上がってしまった。男でも乳首で感じるなんて一生知りたくなかったのに、たったの数時間でいやらしい性感帯に変貌させられたそこは、今や、触れられれば俺の背をしならせ、腰を突き出させ、花芯を勃たせるスケベスイッチだ。快楽神経を剥き出しにする仕打ちに、涙を堪えることもできず、啜り泣くしかなかった。
「胸ってこんなに美味しそうに熟れるものなんだって、錦が教えてくれなきゃ、一生知らなかったよ。極上の果物みたいだ」
桜香はそう言って、飽きもせず俺の胸にむしゃぶりつく。
「も、やめろよ、ジンジンする、痛い……」
「痛くしてないよ? 気持ちイイの間違いじゃないの?」
次いで、乳首に牙を立てられ、俺は思わず悲鳴を上げた。
「ひぎぃっ!」
「痛いっていうのは、こういうこと。……あれ? 痛くしたのに射精してるよ、錦。とんだ変態になっちゃったね」
「あ、あぁ、そんな、嘘だ……」
けれど、いくら俺が信じたくなくても、俺の愚息はすっかり薄くなった精液を吐き出していて、それ以上桜香の言葉が否定できなかった。
「こんなに変態になっちゃった錦ならこのまま挿れちゃっても大丈夫な気がするけど、まあ、せっかく色々教えてくれたんだし、しっかり濡らして慣らしてあげるからね」
まだまだ甚振るつもりらしい、その言い様に、頭がクラクラする。
「先ずは、濡らす……っと」
桜香は俺の両腿をガバッと抱え上げた。何度も吐き出した精液が尻の方にも垂れて、孔の入り口は既に湿っている。けれど、桜香の舌が近づくと、俺の体は無意識、かつ明らかに、強張った。挿入の痛みに耐えるだけだった初夜を思い出し、警戒しているかのように。
「んー、やっぱり後ろからの方がやりやすいや」
気付かなかったはずはなかろうに、桜香はあの時のように俺をひっくり返し、腰を掴んだ。あらぬ所に感じる、桜香の髭のくすぐったさと、熱い吐息。
「ほら、ちゃんと息して、錦」
指摘されて、自分が息を詰めていたことを知る。俺自身ではどうしようもなくて、首を横に振った。
「仕方ないな。しっかり気持ちイイって上書きしてあげないとダメか……」
「ひっ!」
ピチャピチャと、舌で窄まりに唾液を塗り込められる。泥濘んだそこが綻び出すと皺の一つ一つまで丁寧に舐め広げる、ねちっこい前戯。
逃げようとしても、腰をがっしり掴まれていては、逃げられない。無意味に、手がシーツの海を掻き乱した。止まっていた息は、再開こそしたものの、まだ浅い。
やがて、つぷり、と感じたのは、尻穴を割り開かれる感触。
「や、ああぁ、入って、くるなよぉ……」
今回侵入してきたのは、桜香の舌だ。本気で、初夜を上書きするつもりらしい。
俺は絶望したけれど、一体何がこんなに苦しく感じるのか、もはやわからなかった。
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