07 自覚なく、侵蝕される

 目が覚めると部屋の外はうっすらと明るく、夜が明けたことを知った。
 身動みじろぎしようとして、まだ桜香おうこうを抱いていたことに気付く。抜くべきモノをそっと抜こうとしたのに、桜香おうこうはまだ俺からしぼり取りたいらしい。肩から体を押し倒され、シーツの乱れ切った布団にい止められた。
 金色の瞳を爛々らんらんかがやかせ、桜香おうこうは俺の上で腰を振る。いわゆる騎乗位というアレだ、多分。人間の姿ではあったけれども、桜香おうこうの頭の上には猫耳が揺れており、一体彼はどれだけの姿を持っているのか疑問に思った。
「んっ、おはよう、にしき。ふっ、もう、ちょっと、はぁっ、たねが、んぁ、しくって」
「昨夜あれだけヤったってのに、まだ足りないのか⁉︎ ……っ!」
 刺激に耐えきれず、桜香おうこうの中に放つ。すると、桜香おうこうから放たれる甘い香りが、また強くなった。その甘い香りが俺を惑乱わくらんさせ、昨夜はけだもののようにさかってしまったのだが、まさか朝から更に続きをするつもりなのだろうか。正直、体力的についていける気がしない。
 桜香おうこうは、俺の精を受け止めたはらをさすった。背後で尻尾が満足そうに揺れている。
「僕のは、人間に取られてしまったからね。にしきから返してもらわないと」
 人間に取られた、というのは、桜猫にされた一件のことなのだろう。そちらは理解できる。ただ、俺から返してもらう、というのはどういうことだ? まさか、俺まで去勢されるとか、そういう……
「ふふっ、何か面白いこと考えてるね? にしきは何も考えずに、気持ち良く腰を振ってくれれば良いんだよ」
「いや、普通に怖いぞ、その言葉」
 仕方ないなぁと笑う桜香おうこうがニヤニヤと説明するには、特殊な術の効果で俺が桜香おうこうに中出しすればするだけ、そのたね桜香おうこうの空っぽなフグリを満たしつつ彼の子種に変換され、桜香おうこうおすの機能を戻すらしい。
「だから、今だけだけど、にしきには頑張って僕に種付けしてくれないと困るんだよね」
 一応夫としては最初に俺にマウンティングする必要があったけれど、その後にたねしぼり取る口実を考えていたところに、俺が交尾への不満を見せたので乗っかったとのこと。
「……桜香おうこうおすに戻ったら、俺の扱いはどうなるんだ? 用済み、になるだろう?」
にしきったら、本当に面白いことを言うね。立派なメスネコにしてあげるって言ったの、忘れたの? 僕の赤ちゃん、いっぱい産んでくれなきゃ」
 桜香おうこうすごみある笑顔が、俺の背筋をゾクリとさせる。捕食者の笑顔だ。獲物えものは当然、俺。咄嗟とっさあきれたような顔で返せたのは、奇跡だ。
「男がどうやってはらむんだよ……」
 桜香おうこうは、目をパチクリとまたたかせた。
「オメガははらむよ? 特に僕はアルファだから、確実に、はらませるよ?」
 オメガ、アルファ。昨夜から何回も聞く、知らない言葉だ。
「自覚した時が楽しみだなぁ」
 何を自覚するのか、恐ろしくて、聞けなかった。いや、薄々とは感じていたのかもしれない。俺は、男であることに矜持きょうじを持って強がってしまうけれど、桜香おうこうに何かをされるのに、弱いと。
 黙ってしまった俺に、桜香おうこうはキスを仕掛けてくる。たったの一晩で、桜香おうこうはキスが気持ちイイものだと知っただけでなく、その仕掛け方までをも俺から吸収してみせた。
「……んむっ、チュッ、ねぇ、だからさ、もっと僕に、ちょうだい?」
「ぷはっ、はぁっ、あっ、これ以上、あげられるものなんて、ん、あるかっつーの」
「強がっちゃって、かーわいい」
 ペロリと唇をめて見せる余裕振よゆうぶりに、桜香おうこうおすとしての自信の強さを垣間見かいまみる。対する俺は、もう息が上がってしまい、涙目だ。
 でも実際、もう桜香おうこうにあげられるものなんてなかった。われるままにこわれるほど桜香おうこうに心身を明け渡してしまった俺が、更に差し出せるものなんて……

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