目が覚めると部屋の外はうっすらと明るく、夜が明けたことを知った。
身動ぎしようとして、まだ桜香を抱いていたことに気付く。抜くべきモノをそっと抜こうとしたのに、桜香はまだ俺から搾り取りたいらしい。肩から体を押し倒され、シーツの乱れ切った布団に縫い止められた。
金色の瞳を爛々と輝かせ、桜香は俺の上で腰を振る。いわゆる騎乗位というアレだ、多分。人間の姿ではあったけれども、桜香の頭の上には猫耳が揺れており、一体彼はどれだけの姿を持っているのか疑問に思った。
「んっ、おはよう、錦。ふっ、もう、ちょっと、はぁっ、胤が、んぁ、欲しくって」
「昨夜あれだけヤったってのに、まだ足りないのか⁉︎ ……っ!」
刺激に耐えきれず、桜香の中に放つ。すると、桜香から放たれる甘い香りが、また強くなった。その甘い香りが俺を惑乱させ、昨夜は獣のように盛ってしまったのだが、まさか朝から更に続きをするつもりなのだろうか。正直、体力的についていける気がしない。
桜香は、俺の精を受け止めた胎をさすった。背後で尻尾が満足そうに揺れている。
「僕のは、人間に取られてしまったからね。錦から返してもらわないと」
人間に取られた、というのは、桜猫にされた一件のことなのだろう。そちらは理解できる。ただ、俺から返してもらう、というのはどういうことだ? まさか、俺まで去勢されるとか、そういう……
「ふふっ、何か面白いこと考えてるね? 錦は何も考えずに、気持ち良く腰を振ってくれれば良いんだよ」
「いや、普通に怖いぞ、その言葉」
仕方ないなぁと笑う桜香がニヤニヤと説明するには、特殊な術の効果で俺が桜香に中出しすればするだけ、その胤が桜香の空っぽなフグリを満たしつつ彼の子種に変換され、桜香に雄の機能を戻すらしい。
「だから、今だけだけど、錦には頑張って僕に種付けしてくれないと困るんだよね」
一応夫としては最初に俺にマウンティングする必要があったけれど、その後に胤を搾り取る口実を考えていたところに、俺が交尾への不満を見せたので乗っかったとのこと。
「……桜香が雄に戻ったら、俺の扱いはどうなるんだ? 用済み、になるだろう?」
「錦ったら、本当に面白いことを言うね。立派なメスネコにしてあげるって言ったの、忘れたの? 僕の赤ちゃん、いっぱい産んでくれなきゃ」
桜香の凄みある笑顔が、俺の背筋をゾクリとさせる。捕食者の笑顔だ。獲物は当然、俺。咄嗟に呆れたような顔で返せたのは、奇跡だ。
「男がどうやって孕むんだよ……」
桜香は、目をパチクリと瞬かせた。
「オメガは孕むよ? 特に僕はアルファだから、確実に、孕ませるよ?」
オメガ、アルファ。昨夜から何回も聞く、知らない言葉だ。
「自覚した時が楽しみだなぁ」
何を自覚するのか、恐ろしくて、聞けなかった。いや、薄々とは感じていたのかもしれない。俺は、男であることに矜持を持って強がってしまうけれど、桜香に何かをされるのに、弱いと。
黙ってしまった俺に、桜香はキスを仕掛けてくる。たったの一晩で、桜香はキスが気持ちイイものだと知っただけでなく、その仕掛け方までをも俺から吸収してみせた。
「……んむっ、チュッ、ねぇ、だからさ、もっと僕に、ちょうだい?」
「ぷはっ、はぁっ、あっ、これ以上、あげられるものなんて、ん、あるかっつーの」
「強がっちゃって、かーわいい」
ペロリと唇を舐めて見せる余裕振りに、桜香の雄としての自信の強さを垣間見る。対する俺は、もう息が上がってしまい、涙目だ。
でも実際、もう桜香にあげられるものなんてなかった。請われるままに壊れるほど桜香に心身を明け渡してしまった俺が、更に差し出せるものなんて……
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