05 初夜、不穏な幕開け

 眼前に広がるのは、絶対に一人で寝るには大きすぎる、布団ふとん
「まあ、今の僕には、まだにしきをどうこうできるたねはないんだけどね」
 ニコニコと鳴く、こう
「そこまで痛くもないはずだし、サクッとヤることヤっちゃおうよ」
「いや、俺、男だぞ……?」
 あまりに怒涛どとうすぎる展開に、俺のポンコツ頭が状況の把握はあく放棄ほうきし始めていても、流石さすがにそこには、半ば反射的に、ツッコミを入れた。
こうだって、元はおすだろう……?」
桜香おうこう、ね。僕の名前は、桜香おうこうだよ、にしき
「オウコウ」
 俺が名前をり返すと、ゴロゴロとこう、いや桜香おうこうのどが鳴る。
「ふふ、いい子だね。大丈夫。僕が無事アルファに戻れたら、にしきのこと、ちゃーんと立派なメスネコにしてあげるから」
 分からない単語もあったし、不穏ふおんな単語もあった。なのに、疑問を口にする前に、桜香おうこうが俺を押したおし、無理矢理腰を後ろからつかんで、四つんいにさせられる。既にかなり着崩きくずれしていた白無垢しろむくがますますみだされ、ほぼ衣服としての機能を果たさなくなった。
 尻たぶに桜香おうこうひげが当たってくすぐったい。スンスンと、尻穴のにおいを確認されていることに、頭がクラクラとした。
「ば、ばかっ、何してんだよ⁉︎」
「んー、れないね?」
 あまりに明け透けな言い様に、更にカッとなる。
れるわけないだろ⁉︎ 俺は男だってさっきも言っ……ひぁ! っぐぅ‼︎」
 相手が桜香おうこうでさえなければ、きっと俺は全力で抵抗し、り飛ばしていただろう。
 俺の尻穴を一回だけめた桜香おうこうは、そのまま慣らしも何もなく、俺のうなじんで、突っ込みやがったのだ。何をって……ナニを。
 くっそ、絶対、これ、切れてる。覚えてろよ、って言いたいところだけど、桜香おうこうに先に手を出したのが人間で、そのトバッチリなのだと思うと、いくら痛くてもくやしくても情けなくても、俺が我慢がまんするしかないと思った。それで桜香おうこうの気が済むのなら。
 数回、腰を振った桜香おうこうは、そのままあっさりと俺を離した。
「うん、やっぱり出ないし、とげも出せないし。痛くなかっただろ?」
 そりゃ、桜香おうこうは去勢された桜猫なのだから、そうだろう。俺も、そこで同意すれば良かったのだ。だって、それが猫の一般的な交尾の方法だったのだから。
 文句は言いたい。けれど言っては角が立つ。うなずかなかった俺の態度で、桜香おうこうは俺の不満を察したらしい。
「ふうん? そんなに僕が下手だって言うなら、にしきがお手本を見せてよ」
「あのな、俺は人間なの。どうやって猫をよろこばせて抱くっていうんだよ……」
 この際、その猫に獣姦されて処女を散らしてしまったことは、考えないものとする。痛かっただけだし、セーフだと思いたい。
「そんな、交尾によろこびなんて……」
 桜香おうこうは何かを言いかけて、その言葉を飲み込んだようだった。
「わかった。じゃあ、教えてもらおうじゃないか、人間同士の交尾の方法を」
「そもそも交尾って言わないけどな」
「交尾じゃないなら、何なのさ?」
 急に、言葉が普通に聞こえた。普通に、というのは、猫の鳴き声ではなく、人間の言葉として耳に届いた。
 おどろいて振り返ると、キジトラの桜猫ではなく、やたらと顔面偏差値の高い青年が、油断ならない笑顔で俺を見ていた。やや浅黒い肌、金のメッシュが入った黒色の髪、何よりも特徴的な金色の瞳。彼は、俺を挑発する。
「ほら、人間同士なら、どうするんだい?」

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