眼前に広がるのは、絶対に一人で寝るには大きすぎる、布団。
「まあ、今の僕には、まだ錦をどうこうできる胤はないんだけどね」
ニコニコと鳴く、香。
「そこまで痛くもないはずだし、サクッとヤることヤっちゃおうよ」
「いや、俺、男だぞ……?」
あまりに怒涛すぎる展開に、俺のポンコツ頭が状況の把握を放棄し始めていても、流石にそこには、半ば反射的に、ツッコミを入れた。
「香だって、元は雄だろう……?」
「桜香、ね。僕の名前は、桜香だよ、錦」
「オウコウ」
俺が名前を繰り返すと、ゴロゴロと香、いや桜香の喉が鳴る。
「ふふ、いい子だね。大丈夫。僕が無事アルファに戻れたら、錦のこと、ちゃーんと立派なメスネコにしてあげるから」
分からない単語もあったし、不穏な単語もあった。なのに、疑問を口にする前に、桜香が俺を押し倒し、無理矢理腰を後ろから掴んで、四つん這いにさせられる。既にかなり着崩れしていた白無垢がますます乱され、ほぼ衣服としての機能を果たさなくなった。
尻たぶに桜香の髭が当たってくすぐったい。スンスンと、尻穴の臭いを確認されていることに、頭がクラクラとした。
「ば、ばかっ、何してんだよ⁉︎」
「んー、濡れないね?」
あまりに明け透けな言い様に、更にカッとなる。
「濡れるわけないだろ⁉︎ 俺は男だってさっきも言っ……ひぁ! っぐぅ‼︎」
相手が桜香でさえなければ、きっと俺は全力で抵抗し、蹴り飛ばしていただろう。
俺の尻穴を一回だけ舐めた桜香は、そのまま慣らしも何もなく、俺の頸を噛んで、突っ込みやがったのだ。何をって……ナニを。
くっそ、絶対、これ、切れてる。覚えてろよ、って言いたいところだけど、桜香に先に手を出したのが人間で、そのトバッチリなのだと思うと、いくら痛くても悔しくても情けなくても、俺が我慢するしかないと思った。それで桜香の気が済むのなら。
数回、腰を振った桜香は、そのままあっさりと俺を離した。
「うん、やっぱり出ないし、棘も出せないし。痛くなかっただろ?」
そりゃ、桜香は去勢された桜猫なのだから、そうだろう。俺も、そこで同意すれば良かったのだ。だって、それが猫の一般的な交尾の方法だったのだから。
文句は言いたい。けれど言っては角が立つ。肯かなかった俺の態度で、桜香は俺の不満を察したらしい。
「ふうん? そんなに僕が下手だって言うなら、錦がお手本を見せてよ」
「あのな、俺は人間なの。どうやって猫を悦ばせて抱くっていうんだよ……」
この際、その猫に獣姦されて処女を散らしてしまったことは、考えないものとする。痛かっただけだし、セーフだと思いたい。
「そんな、交尾に悦びなんて……」
桜香は何かを言いかけて、その言葉を飲み込んだようだった。
「わかった。じゃあ、教えてもらおうじゃないか、人間同士の交尾の方法を」
「そもそも交尾って言わないけどな」
「交尾じゃないなら、何なのさ?」
急に、言葉が普通に聞こえた。普通に、というのは、猫の鳴き声ではなく、人間の言葉として耳に届いた。
驚いて振り返ると、キジトラの桜猫ではなく、やたらと顔面偏差値の高い青年が、油断ならない笑顔で俺を見ていた。やや浅黒い肌、金のメッシュが入った黒色の髪、何よりも特徴的な金色の瞳。彼は、俺を挑発する。
「ほら、人間同士なら、どうするんだい?」
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