始まりは異世界から

結局は異世界にて、魔物の希望となる

 朝陽《あさひ》の昇《のぼ》る頃《ころ》に、目が覚めた。目覚まし時計なんてないけれど、あまり夜更《よふ》かしすることがなくなってからは、こんなものだ。 寝ている間も環境浄化は進んでいるので、起きてからは魔物たちを元に戻す治療。既に幻獣たちの…

やはり間違いなく、魔物は元に戻せる

 魔物と化したグリフォンは、相変わらず雷球やら風刃やらを吐き出しているが、それらはオレの周囲で元の魔力に戻り、そのままオレに吸収されている様子だ。 つまり、オレに魔法は効かない。えっ、何そのチートっぽい能力。 仔《こ》グリフォンの身の安全は…

やはり間違いなく、オレの存在が鍵だ

 その日は突然にやってきた。浜辺で魔力を食べていたら、海の向こうからとても混濁《こんだく》したモヤが飛んできたのだ。玉虫色を通り越して濁《にご》り切った魔力に絡みつかれ、オレには見覚えのないグリフォンが、暴れ狂っていた。 なるほど、魔紋《ま…

やはり間違いなく、周りの期待が重い

 何日も、いや何週間もかけて草原の余剰魔力《よじょうまりょく》を食べ、森の余剰魔力《よじょうまりょく》を食べ、山の余剰魔力《よじょうまりょく》を食べたところで、ここが小さな島だと知った。山の天辺《てっぺん》から見た景色は、見事に全面、海につ…

やはり間違いなく、オレに役目がある

 せめて与えられた役割くらいは果たそうと、魔力を食べているけれど、食っても食っても腹が膨れた感じがしない。空腹感は少しずつ紛《まぎ》れてきた気もするけれど、まだまだ食べられると本能が訴《うった》えてくる。 まさか、一定食べ尽くすまで、オレの…

やはり間違いなく、ファンタジー世界

 魔力と呼ばれるカラフルなモヤを取り込んで、体内で無色透明に戻したソレを、世界に還《かえ》す。濾《こ》し取られた生命力や感情が、オレの食事だ。 この世界はすごい。思いの力で、本当に魔法が……奇跡が起きる。けれど、その力は、どうやら諸刃の剣の…

思っていた以上に、周りが構ってくる

 ゆさゆさと、体を揺《ゆ》さぶられていた。さっきも、そんなことがあった気がする。 でも、もう、目を覚ましたくはなかった。 鼻先に食事を差し出されている気がするけれど、それも食べたくない。そりゃ、生きる為には他の生物を糧《かて》にする必要があ…

思っていた以上に、自分の境遇が辛い

 大体、ちょっと疲れて有給休暇を取っただけなのに、どうしてオレは異世界に、こんな頼りない体で放り出されないといけなかったのだろう。現実逃避《げんじつとうひ》を願うのはそんなにダメなことだったのか。承認欲求《しょうにんよっきゅう》はそんなに悪…

思っていた以上に、注目を浴びていた

 ゆさゆさと、何かに体を揺《ゆ》さぶられている。誰か、とは思わない。グルグルと、猫が喉《のど》を鳴らしているかのような音が、頭上から降ってきている。(ママー、まだ起きてくれない) ピィピィ、鳥の鳴き声に被《かぶ》せて、幼い少年のような思いが…

思っていた以上に、夢の中は容赦ない

「仁《じん》ってさ、想像以上にヘタレだよね」 真っ白な部屋、くるくるり、白衣の両ポケットに手を突っ込み、裾《すそ》を翻《ひるがえ》しながら、オレらしくない口調で嘲笑《あざわら》うオレ。明らかに、夢の中だ。「いきなりグリフォンに出くわすだなん…

思っていた以上に、オレの体は貧弱だ

 恐る恐る覗《のぞ》き込んだ鏡の中、非常に腰がひけた様子で見返してきたのは、やはり真っ白な毛皮の、リスのような小動物。ピンと立った大きな耳。フッサフサの尻尾《しっぽ》。大きくつぶらな黒い瞳。 かっこいいというよりも、愛らしい姿。成人男性だっ…

魔法が使えるだなんて、思わなかった

 オレが摂取《せっしゅ》していたのは、短く表すと、視界を玉虫色に染めているナニカ。もう少し詳しく言うならば……、世界に放出された、余剰《よじょう》な生体エネルギー。しかも、確実に、地球上にはないやつ。 オレが吸い込んだ玉虫色の空気は、色のな…