堕天使(第二版)

堕天使

「バカバカ、この大馬鹿っ!」 |天音《あまね》にぃは、ご立腹だ。飛行実験と飛行訓練の後、|唐突《とうとつ》に|天音《あまね》にぃの自室に呼び出されたから、何事かと思った。 ご立腹そうな|天音《あまね》にぃだけど、|普段《ふだん》なら|怖《こ…

翼の覚醒

 気がついたら、宙を|漂《ただよ》っていた。眼下では、|天音《あまね》にぃが、動かなくなったかつての自分を|抱《だ》きかかえて|泣《な》き|喚《わめ》いている、気がする。でも、音は聞こえない。 これは、|噂《うわさ》に聞く、|幽体離脱《ゆう…

順調ではない実験

 くらっと、目が回った。いわゆる立ちくらみというやつだ。 実験の経過で、|避《さ》けては通れない有害事象だと、知っている。段々立ちくらみの|頻度《ひんど》が増えて、|記憶《きおく》が|曖昧《あいまい》になって、身体が動かせなくなって、ついに…

堕天使の素体

 |天音《あまね》にぃは、キレイなものが好きだと思う。 目の前に|佇《たたず》む、未来の自分の|素体《そたい》を見て思う。 鏡で見ている自分の|面影《おもかげ》はある。けれど、それ以上に目の前のこの人形は|端正《たんせい》に整った顔立ちをし…

実験の足音

 |幸崎《こうざき》|天音《あまね》が、ニンマリと笑っている。「そろそろ、|璃音《りおん》の実験の話をしよう」 もう、実験の内容は、他の|被験者《ひけんしゃ》で何度も見てきた。人間を、機械人形に変える実験だ。 実験が成功しようがしまいが、人…

幸崎天音と自分

 連行されてから、結構な月日が過ぎてしまった。|詩音《しおん》の無事は、知れない。 あまりにも自分が|詩音《しおん》のことを考えすぎるものだから、|天音《あまね》にぃが休日に家まで|付《つ》き|添《そ》ってくれたことがある。けれども、家は|…

アマネにぃ

「|僕《ぼく》は|幸崎《こうざき》|天音《あまね》。|天音《あまね》って呼んでくれたら良いよ」 イヤなニンマリをするオニーサンは、アマネというらしい。今は、ニンマリじゃなくて、カケルにぃみたいにニコニコしている。「さあ、呼んでごらん? |天…

とんでもない場所

 布にくるまれ、ほぼ目かくし状態でレンコーされて、遠く遠く、来てしまった。もう上が暗いのか暗くないのかもわからないくらい、なにも見えないまっくらやみ。いつものようにシオンの待つ家へ帰れる気がしなくて、身体がふるりとした。 ……シオンは、ちゃ…

不穏な空気

 今日はキラキラ、あんまりお金にならなかったな。このお金だったら、ええと、うん。やっぱり、シオンのお薬の、三回分にしかならないや。 シオン、ゼーゼーしてるから、もっとお薬がほしいのにな。「ふむ。飛行場周囲のスラム、スクラップ場に|棲《す》む…

今までの日常

 大きな音と共に、大きな|影《かげ》が走って、頭の上から強い風が、|押《お》さえつけてきた。だから、まとっている布が飛んでいかないように、ぎゅっとする。だって、これがなくなると、体がピリピリするし、後からブクブクの元にもなるから、手放すわけ…