堕天使(初版)

堕天使

「バカバカ、この大馬鹿っ!」 天音にぃはご立腹だ。飛行実験と飛行訓練の後、何故か天音にぃの自室に呼び出されたから、何事かと思った。 ご立腹そうな天音にぃだけど、普段なら怖いけれど、今は全然怖くない。部屋に入るなり抱き締められてのお言葉じゃ、…

翼の覚醒

 気がついたら、宙を漂っていた。眼下では天音にぃが、動かなくなったかつての自分を抱きかかえて泣き喚いている、気がする。でも、音は聞こえない。 これは、噂に聞く、幽体離脱とやらだろうか。 まあ、せっかくの体験だし、このまま少しだけ、空を飛ばせ…

順調ではない実験

 くらっと、目が回った。いわゆる立ちくらみというやつだ。 実験の経過で避けては通れない有害事象だと、知っている。立ちくらみの頻度が増えて、記憶が曖昧になって、身体が動かせなくなって、永の眠りについたのかと思えば、何故か素体の中ですっきりと目…

堕天使の素体

 天音にぃは、キレイなものが好きだと思う。 目の前に佇む、未来の自分の素体を見て思う。 鏡で見ている自分の面影はある。けれどそれ以上に目の前のこの人形は端正に整った顔立ちをしていて、果たして自分が後にこの顔になるのかと思うと、背筋がむず痒く…

実験の足音

 幸崎天音が、ニンマリと笑っている。「そろそろ、璃音の実験の話をしよう」 もう、実験の内容は、他の被験者で何度も見てきた。人間を機械人形に変える実験だ。 実験が成功しようがしまいが、自分は詩音の元には帰られなかっただろう。そんな、実験。 幸…

幸崎天音と自分

 連行されてから、結構な日月が過ぎてしまった。詩音の無事は、知れない。 あまりにも自分が詩音のことを考えすぎるので、天音にぃが休日に家まで付き添ってくれたことがある。結果、家は盛大に荒らされており、詩音も行方不明になっていた。 せめてカケル…

アマネにぃ

「僕は幸崎天音。天音って呼んでくれたら良いよ」 イヤなニンマリをするオニーサンは、アマネというらしい。今はニンマリじゃなくて、カケルにぃみたいにニコニコしている。「さあ、呼んでごらん? 天音って」「……アマネにぃ?」「んーっ、璃音みたいにカ…

とんでもない場所

 布にくるまれ、ほぼ目隠し状態でレンコーされて、遠く遠く、来てしまった。もう、上が暗いのか暗くないのかもわからず、いつものようにシオンの待つ家へ帰られる気がしなくて、身体がふるりとした。 ……シオンは、ちゃんとお薬をもらえたのだろうか。もう…

不穏な空気

 今日はキラキラ、あまりお金にならなかった。このお金だと、シオンのお薬、三回分にしかならないや。 シオン、ゼーゼーしてるから、もっとお薬がほしいのにな。「飛行場周囲のスラム、スクラップ場に棲むアルビノの双子、璃音とは君のことかね?」 変な格…

今までの日常

 大きな音と共に、大きな影が走って、頭の上から強い風が押さえつけてきた。思わず、まとっている布が飛んでいかないように、ぎゅっとした。これがなくなると、身体がピリピリするし、ブクブクの元にもなるから、手放すわけにはいかない。 上を見たら、大き…