穏やかな日々
ふわふわり、今日も意識の|欠片《かけら》はネットを|漂《ただよ》い、|詩音《しおん》の|行方《ゆくえ》を|捜《さが》しています。ご本人の存在はものすごく身近なんですけれど、本体の|行方《ゆくえ》が厳重に|隠《かく》されているのですよね。 …
贄人形(第二版)
新しく始める
いつものように|監視《かんし》カメラを通して、自分の姿を|眺《なが》めている。 一番|懸念《けねん》された、脳の機械への|置換《ちかん》が記録的な早さで成功したため、ひとまず、存在|消滅《しょうめつ》の危機は過ぎ去ったらしい。だから後は|…
贄人形(第二版)
未来への願いごと
|電子文字盤《でんしもじばん》を接続してもらえたので、|遣《や》り|取《と》りが|随分《ずいぶん》楽になった。元々、特定の病気の|患者《かんじゃ》のために脳波を読み取るタイプの|文字盤《もじばん》だったらしく、非常に快適に、動いてくれる。…
贄人形(第二版)
人間卒業への第一歩
そして|天音《あまね》は本当に、|璃音《りおん》を引き連れて自分の|寝《ね》ている部屋に来た。「|奏音《かのん》。まだ生きてる?」 あんまりと言えばあんまりな言い方だけれど、聞きたいことはよく分かるので、さて本体は|何処《どこ》がまだ動く…
贄人形(第二版)
人形の目にも涙
「お|疲《つか》れ|様《さま》、|璃音《りおん》。まさか今になって、|有楽部《うらべ》|闇呪《あんじゅ》を消しにかかってくるなんてね。なんて言うか、向こうも|暇人《ひまじん》だよね」 |天音《あまね》がニンマリとした、あまり気持ちの良くない…
贄人形(第二版)
詩音との出会い
耳元で|気泡音《きほうおん》が鳴っている。もう、目を開ける力も残っていないけれど、|瞼《まぶた》の裏に映る光からして、簡易的な|医療用培養槽《いりょうようばいようそう》にでも入れられているのだろうか。それでもきっと、数時間の延命がやっとだ…
贄人形(第二版)
受け入れられない
|嗚呼《ああ》、|何故《なぜ》、|廃棄《はいき》する前に処分しておいてくれなかったのだろうか。人形は、|中途半端《ちゅうとはんぱ》な|自我《じが》に目覚めてしまった。 今になって、改めて処分されたのだと、そしてもう、命が|潰《つい》えかけ…
贄人形(第二版)
拾われてから
拾われてからの日々は、それまでとの|違《ちが》いに|戸惑《とまど》うことも多く、生まれて初めて色々と考えさせられた。 拾ってくれたのは、少しばかり色合いが派手で、ついでに顔立ちもとても整っていて、結構目を引く二人組だった。|瑠璃色《るりい…
贄人形(第二版)
人形の生い立ち
……こういうのを、|走馬灯《そうまとう》とか言うのだったか。思い返すのにも、あまり時間のかからない、短くて取るに足らない人生だった。 古くからの名門と名高き|有楽部家《うらべけ》の長子として生まれながら、|双子《ふたご》の弟、|光希《みつ…
贄人形(第二版)
まるで水槽の中
こぽ、こぽぽ。 |気泡音《きほうおん》を|子守唄《こもりうた》代わりに聞きながら、意識は|微睡《まどろ》みよりも|更《さら》に深く|沈《しず》んでいる、自覚があった。 思考がまとまる気配もなく散り散りで、自身の置かれている|状況《じょうき…
贄人形(第二版)