絡繰異聞・本編(初版)

『そして新たな日常へ』

 龍神警備会社に、新入社員が入った。 それ自体は、別に珍しいことではない。社長に拾われ、その人柄に惚れ込んで中途半端な時期に入社希望する人はこれまでにもいたし、そういう人材ほど何故か尖った方面に優秀なことが多いため、また社長が誰か拾ったのか…

『かくて機械屋の本領発揮』最終確認

「ボク、ふっかーつ!!」 再起動されて開口一番に叫んだ天音に向けられた視線は、半分が生温かいものであったが、残り半分は緊張を孕んでいた。最終動作確認の最中とあって、対象と同じようには盛り上がれない。「あー、奏音ちゃん、どうっすか」「今のとこ…

『かくて機械屋の本領発揮』休憩時間

 詩音が救出され、脱出するということは、世間的にはザイオンサーバーが陥落するのとほぼ同義だ。難攻不落の大容量ネットサーバーとして、一流のサービスのみを取り扱っている詩音。急に全ての仕事を停止すれば、社会に与える影響は計り知れない。 故に詩音…

『かくて機械屋の本領発揮』進捗状況

 果たしてその三ヶ月後、奏音は精神的に疲労困憊していた。さっくり予定通りに終わったのは璃音のプログラムメンテナンスのみ。天音の義躯改造は細かい作業を要するし、デバッグは案の定難航するしで、根を詰めるような案件しかなかったためだ。 だが一方で…

『かくて機械屋の本領発揮』現状把握

 奏音の大改修に三ヶ月掛かったからには、天音の方も恐らくは同程度掛かるだろうというのが皆の一致した見解だった。「奏音ちゃんの時はプログラムの癖を把握するのに時間掛けたっすけど、天音の兄ちゃんの場合はバグを探さないといけないっすからね」 聖也…

『かくて機械屋の本領発揮』大改造

 全ての修理とメンテナンスが終わって奏音が目を覚ましたとき、作業開始から既に三ヶ月経っていたこともあり、絡繰師の存在はすっかり龍神警備会社の中に溶け込んでいた。ついでに、何故かちゃっかりと、情報屋、風薫の存在も。「大丈夫っすか。違和感は?」…

『かくて地固まる』道化師たち

 次の沈黙を破ったのは、天音の笑い声だった。「風薫って名前だっけ、キミもなかなか言うねぇ。そんなコテンパンにされた璃音はボク、初めて見るかも!」 でもね、と続ける天音の表情は面白がっているようで、瞳は全く笑っていなかった。「そろそろ許したげ…