『そして新たな日常へ』
龍神警備会社に、新入社員が入った。 それ自体は、別に珍しいことではない。社長に拾われ、その人柄に惚れ込んで中途半端な時期に入社希望する人はこれまでにもいたし、そういう人材ほど何故か尖った方面に優秀なことが多いため、また社長が誰か拾ったのか…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて月夜に騒ぎを起こす』救出劇は成功した
龍神警備会社の社長邸にて、最終点呼が行われる。 詩音の救出に出掛けたメンバーは、総員無事。誰一人欠けることなく、詩音を連れ帰ってきた。 詩音については残念ながら体の衰弱が激しく、医療用培養槽から当面出られそうにないが、それでも囚われ続けて…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて月夜に騒ぎを起こす』憐れなる施設警備員
「ふっふっふ、いよいよ私の出番ね!」 詩音の奪還成功を告げる通信から三十分後、警備員の動きが慌ただしくなったのを見て取った風薫はにんまりと笑った。 璃音を追っていた一団から、三分の二ほどが施設内に引き返そうとしている。その視線の先に飛び出し…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて月夜に騒ぎを起こす』救出劇は折返し地点
懸念されたセキュリティシステムは、強化された絡繰師と璃音に逢いたい詩音の前では無力だった。あまりにもあっさりと破られたそれに、出番のなかった聖也は生気の抜けた目をしている。「そりゃ、そうなるっすね。うちの大概なセキュリティシステムも秒殺し…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて月夜に騒ぎを起こす』耀夜は後悔していない
それでも納得しかねる様子の真理亜に対し、それに、と一息置いてから告げる耀夜は、笑顔だった。「本当に駄目だと思ったら、真理亜ならもっと早くから全力で止めてくれるだろう? だから構わないのさ。真理亜は今、本当に私が後悔していないか確認したかっ…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて月夜に騒ぎを起こす』真理亜は社長に物申す
詩音の救出作戦が実行に移されたのは、月が煌々と輝く夜だった。 陽動は璃音と風薫が大半を務め、奏音、聖也、天音が施設の奥まで突入する。それぞれに龍神警備会社の社員が護衛としてついているが、耀夜と真理亜は現地には行かず、自宅に設けた本部で事の…
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『かくて機械屋の本領発揮』最終確認
「ボク、ふっかーつ!!」 再起動されて開口一番に叫んだ天音に向けられた視線は、半分が生温かいものであったが、残り半分は緊張を孕んでいた。最終動作確認の最中とあって、対象と同じようには盛り上がれない。「あー、奏音ちゃん、どうっすか」「今のとこ…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて機械屋の本領発揮』休憩時間
詩音が救出され、脱出するということは、世間的にはザイオンサーバーが陥落するのとほぼ同義だ。難攻不落の大容量ネットサーバーとして、一流のサービスのみを取り扱っている詩音。急に全ての仕事を停止すれば、社会に与える影響は計り知れない。 故に詩音…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて機械屋の本領発揮』進捗状況
果たしてその三ヶ月後、奏音は精神的に疲労困憊していた。さっくり予定通りに終わったのは璃音のプログラムメンテナンスのみ。天音の義躯改造は細かい作業を要するし、デバッグは案の定難航するしで、根を詰めるような案件しかなかったためだ。 だが一方で…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて機械屋の本領発揮』現状把握
奏音の大改修に三ヶ月掛かったからには、天音の方も恐らくは同程度掛かるだろうというのが皆の一致した見解だった。「奏音ちゃんの時はプログラムの癖を把握するのに時間掛けたっすけど、天音の兄ちゃんの場合はバグを探さないといけないっすからね」 聖也…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて機械屋の本領発揮』大改造
全ての修理とメンテナンスが終わって奏音が目を覚ましたとき、作業開始から既に三ヶ月経っていたこともあり、絡繰師の存在はすっかり龍神警備会社の中に溶け込んでいた。ついでに、何故かちゃっかりと、情報屋、風薫の存在も。「大丈夫っすか。違和感は?」…
絡繰異聞・本編(初版)
『かくて地固まる』道化師たち
次の沈黙を破ったのは、天音の笑い声だった。「風薫って名前だっけ、キミもなかなか言うねぇ。そんなコテンパンにされた璃音はボク、初めて見るかも!」 でもね、と続ける天音の表情は面白がっているようで、瞳は全く笑っていなかった。「そろそろ許したげ…
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