カノンカノン(彼女の視点)

彼女の視点・翌朝

 微《かす》かな呻《うめ》き声で、眠りの世界から引き起こされた。今更こんな至近距離で声がするだなんて、いったい誰だと考える。 確かに、奴隷だった頃や、一番下っ端だった時は、狭い部屋に雑魚寝《ざこね》だった。けど、傭兵《ようへい》部隊のそこそ…

彼女の視点・夜

 おかしい。 何がおかしいって、指揮官殿が夕食も無視して天幕に引きこもっているのがおかしい。 最初の頃はふとした拍子に引きこもっていたらしいけど、最近は食事には顔を出していたはずなのに。 誰も気にしていない……というか、アタイとの約束がある…

彼女の視点・昼

 天幕に入る前からでもわかるほど、キラキラと目にやかましいのは、彼の髪だ。 普段は丁寧《ていねい》に編まれて後ろに流されるそれは、さわれるのならツヤツヤのサラッサラなんだろうけど、残念ながらアタイの手には届かない。 いっつも額に縦ジワを寄せ…