カノンカノン(第三版)

彼女の師匠は驚愕する

「……で、結局マジに酒を飲みに来たわけか?」 思わずそう唸《うな》ってしまった俺だが、きっと周りも同じ気持ちだと思う。 我等《われら》が指揮官殿が、割り当てられた天幕以外で食事を摂《と》ろうと言い出す……しかも、酒を出せと命令するなど、明日…

彼女の視点・翌朝

 微《かす》かな呻《うめ》き声で、眠りの世界から引き起こされた。今更こんな至近距離で声がするだなんて、いったい誰だと考える。 確かに、奴隷だった頃や、一番下っ端だった時は、狭い部屋に雑魚寝《ざこね》だった。けど、傭兵《ようへい》部隊のそこそ…

彼女の視点・夜

 おかしい。 何がおかしいって、指揮官殿が夕食も無視して天幕に引きこもっているのがおかしい。 最初の頃はふとした拍子に引きこもっていたらしいけど、最近は食事には顔を出していたはずなのに。 誰も気にしていない……というか、アタイとの約束がある…

彼女の視点・昼

 天幕に入る前からでもわかるほど、キラキラと目にやかましいのは、彼の髪だ。 普段は丁寧《ていねい》に編まれて後ろに流されるそれは、さわれるのならツヤツヤのサラッサラなんだろうけど、残念ながらアタイの手には届かない。 いっつも額に縦ジワを寄せ…

彼の視点・翌朝

 朝陽《あさひ》が目に刺さった結果、心地よい微睡《まどろみ》と別れた。今まで、朝陽が目に刺さるほど、強烈だったことはないが……。 無意識のうちに掻《か》き抱《いだ》いていたらしい、腕の中の温もりが身動《みじろ》ぎする。 このままこの温もりを…

彼の視点・夜

 気付けば今日の戦《いくさ》も、その後片付けすらも終わっており、天幕の中はすっかり暗く。随分と勿体無い時間の使い方をしたものだと、頭を抱えたくなった。 いくら私が長命種の部類に入るとはいえ、非理論的かつ堂々巡りの考え事で何も手に着かなかった…

彼の視点・昼

 綺羅綺羅《きらきら》と目に喧《やかま》しいのは、煌《きら》めく刃《やいば》か、魔法の残滓《ざんし》か。咆哮《ほうこう》に絶叫、怒号に悲鳴、これだけ離れているのに、煩《うるさ》くて仕方がない。天幕を震わせるのは血生臭い風だけではなく、支柱を…